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~国立競技場初の競技会でトップアスリート達が躍動!~ セイコーゴールデングランプリ陸上2020東京 大会レポートその1
2020.08.26(水)5月10日の開催が延期となっていた「セイコーゴールデングランプリ陸上2020東京」が8月23日、東京・国立競技場で開催されました。この大会は、今季からワールドアスレティックス(WA)がダイヤモンドリーグに次ぐ国際主要大会として創設した「コンチネンタルツアー」のゴールド(最高峰)に格付けされていますが、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、エントリーは国内在住競技者のみに限定し、無観客での開催に。運営面でも細心の配慮が施されたなかでの実施となりました。
男子100mを筆頭に、実施された全20種目において、国内のトップアスリートが集結。来年に延期された東京オリンピックに向けて、スタートを切りました。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:フォート・キシモト
◎好調の田中が再び快走! 女子1500mでも日本新!
新装なった国立競技場における最初の日本記録は、14年間更新が止まっていた女子1500mで誕生しました。昨年のドーハ世界選手権5000mファイナリストで、今季、800m、1500m、3000m、5000mの4種目で日本リスト1位の座を占めている田中希実選手(トヨタ自動織機TC)が、4分05秒27をマークして、従来の日本記録(4分07秒86、小林祐梨子、2006年)を塗り替えたのです。ペースメーカーを設けずに行われたこのレース。スタートしてすぐに先頭に立った田中選手は、400mを66秒(以下、400mごとの通過タイムは公式記録に記載された計時を採用。そのほかは著者による非公式計時)で入ると、800mを2分11秒、1000mを2分45秒で通過していきます。そして、3分02秒で残り1周(1100m)を迎えると、ここでギアチェンジ。800m過ぎで2位に浮上して田中選手の後ろについていた卜部蘭選手(積水化学)を突き放します。1200mを3分17秒で通過してからは後続との差をさらに大きく広げてフィニッシュラインへ。ラスト1周は63秒でカバーする圧巻の走りでした。
兵庫県の出身の田中選手は、小野中・西脇工業高時代から1500m、3000m、駅伝等で活躍してきました。同志社大に進学した2018年からは、クラブチーム(ND28AC)に所属して、父の田中健智コーチの指導のもとで競技に取り組み、同年にはフィンランド(タンペレ)で開催されたU20世界選手権3000mで金メダルを獲得。先頭を譲ることのない果敢な展開で勝利したこの走りは、当時、各国の陸上関係者に強いインパクトを与えました。豊田自動織機TCの所属となった昨シーズンには、5000mでドーハ世界選手権の日本代表に。本番では、シニア世界大会デビューにもかかわらず、予選で自己記録を10秒以上更新し、東京オリンピックの参加標準記録(15分10秒00)をも突破する15分04秒66をマークして通過を果たすと、決勝では14位ながら日本歴代2位となる15分00秒01まで記録を更新する結果を残しています。
今季も、コロナ禍による競技会自粛期間を挟んだにもかかわらず、その躍進ぶりは加速。5連戦の日程を組んだ7月には、4日のホクレンディスタンスチャレンジ(DC)第1戦1500mで日本歴代2位(当時)となる4分08秒68をマークすると、8日の同第2戦3000mで8分41秒35の日本新記録を樹立、12日の兵庫県選手権800m(2分04秒66=自己新記録)、15日のホクレンDC第4戦5000m(15分02秒62=セカンドベスト記録)と、4レース連続で今季日本最高をマークする快進撃を見せていました。
連戦のなかで挑んだ7月のレースとは異なり、「ここで日本記録を出す」と狙いを定めて準備をしてきた今大会に向けては、一点集中型の状態で本番を目指すことで生じる不安や緊張の高まりも大きかった様子。レースプランについても「考えすぎると不安になってしまうので、逆に考えずにいこう」という心持ちで迎えていたといいます。そんななか、レース直前の招集時のチェックでは、使うつもりだったシューズがWAの定めた規定に沿わないと指摘され、あわてて健智コーチが宿泊先へスパイクシューズを取りに戻るという想定外の事態が発生。レース後、田中選手は「トラブルがあって、頭が真っ白になっていたので、(1周)66(秒)で回っているという意識もなかった」と振り返りましたが、逆にそれが無心の走りに繋がり、大会前から感じていた不安や緊張を吹き飛ばすことに。「どんな展開になっても対応できる練習をしていたし、ホクレン(DCのため)の練習でスタミナ面(の向上)もやれていた。自分の感覚に任せて走ったら、そうなって(日本記録が出て)いた」と、充実したトレーニングによって大きく高められていた地力が、存分に引き出されたレースとなりました。ホクレンDCの連戦では身体面のベースアップを感じたという田中選手ですが、今回の結果については、「精神的なものを改めて強くすることができたのかなと思う」と、メンタル面での収穫を口にしました。
女子1500mの東京オリンピック参加標準記録は4分04秒20。今回の結果で、すでにクリアしている5000mに続いて、1500mでの突破も見えてくるとともに、1500m・3000mのスピード向上によって、福士加代子選手(ワコール)が保持する5000mの日本記録(14分53秒22、2005年)更新も、現実味を帯びてきました。「ここで気を抜かないようにしたい。合宿もあるので、そこでしっかり力をつけて、今日の記録をもっと抜いていくくらいの闘争心を持って精進していきたい」と前を見据えた田中選手。今後は秋シーズンを経て、優勝すれば、その時点でオリンピック代表に内定する12月4日の日本選手権5000mに向かっていくことになります。
女子1500mでは、2位の卜部選手(4分11秒75)、3位の萩谷楓選手(エディオン、4分13秒14)も自己新記録をマークしました。昨年の日本選手権で800m・1500mで2冠を達成している卜部選手は、この結果で日本歴代9位に浮上しましたが、自身もこの大会で日本記録更新を狙っていただけに、「悔しい気持ちのほうが大きい」とコメント。「日本選手権では、最後の持久力が課題になる。きついところで押していく練習が必要。ラスト1周とかその手前とかで切り替えて、スパートができるような練習もしていきたい」と述べ、日本選手権での巻き返しを誓っていました。
◎84m05! 男子やり投でディーンが復活のビッグスロー
男子やり投では、2012年ロンドンオリンピックファイナリストのディーン元気選手(ミズノ)が最終投てきで今季世界10位となる84m05のビッグスローを披露し、優勝を果たしました。
ディーン選手のベスト記録は、日本歴代4位の84m28。早稲田大3年の2012年、織田記念でこの記録をマークして頭角を現すと、同年の日本選手権を制して、父の故国でもあるイギリスで開催されたロンドンオリンピックの代表に。本番では決勝進出を果たし、入賞こそ逃しましたが、10位の結果を残して、一躍次代のエースとして注目される存在となりました。
しかし、そこから長い低迷期に入ってしまいます。翌2013年は4月に80m13でシーズンインしたものの、2戦目で故障。完治しないまま試合に出ていくなかで、「結果が出せない→無理をしたことで身体に負担がかかって故障を起こす→徐々に投てき自体のバランスも崩れていく」という悪循環に陥ってしまったのです。結果を出せない状態は7年にわたりましたが、苦しい試行錯誤のなかでも歩みを止めず、徐々に強化の方向性を見定め、昨年から今年にかけて冬期トレーニングをフィンランドで行うことを決断。クラウドファウンディングで費用を募って渡航しました。そして、同国の選手たちとともに、継続したトレーニングができたことによって、復活の手応えをつかんだ状態で今シーズンを迎えていました。
GGPでは、2013年の80m13以降で最もよい79m88を1回目にマークすると、首位でベスト8に進出。5回目で81m02を投げた新井涼平選手(スズキ浜松AC)にいったんは逆転されたものの、最後の試技で再逆転しました。7年ぶりの80mオーバー、しかもセカンドベストをマークしての勝利に、直後は喜びを爆発させたディーン選手でしたが、学生時代から技術面での指導を仰ぎ、苦楽をともにしてきた田内健二コーチのもとに向かうと、抱き合って涙する姿も見せました。
勝利の興奮が収まり、穏やかな様子に戻って受けた競技後のインタビューでは、この日の結果を「100点満点」と評価。「やっと自分の仕事場に帰ってこられたな、という感じ」と述べると、「やってきたことは間違っていなかったんだなという安心感と、ケガをしなければ自分にはそれくらいの力があるんだなということを実感した」と笑顔を見せ、「この記録がベースになれば、次は87~88mとか、日本記録(87m60)の更新とかが見えてくる」と、次に向けてのステップも聞かせてくれました。
さらに、同級生の新井選手に対して、「5回目でかぶせてきてくれた(=逆転)ので、いい流れができた」と感謝。「このところチームジャパンのやり投は元気がない状態だったが、これでまた元気になっていくと思う。新井くんも僕のことを待っていてくれたと思うし、下の年代にも伸びてきている選手がいっぱいいる。みんなで競い合って、オリンピックではフルエントリー(3人)できるよう頑張りたい」と声を弾ませました。
81m02で2位となった新井選手は、「今シーズンは手間取っていたが、やっと多少納得のいく投げができたかな」と、自身の投てきについては、まずまずの様子。ディーン選手に対して、「一緒にナショナルトレーニングセンターで合宿していたので、調整がいいのはわかっていた。同級生ということで、ずっと一緒に戦ってきたので、悔しい気持ちはあるけれど、今は嬉しい気持ちのほうが大きい。やっと一緒に戦える」と復活を喜ぶとともに、「やりは今季レベルが上がってきているので、その流れに乗れるようにしたい」と、さらなる意欲を見せていました。
>大会レポートその2 は近日公開予定!
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